「勧められたから」ではなく「自らが望む」医療を選択する
日本ではほとんどの癌が、手術を標準治療としています。
そのために臓器の摘出によって、不自由な苦しい生活を強いられる人が後を絶ちません。進行した浸潤性膀胱がんもその一つです。浸潤性膀胱がんでは、膀胱が全摘されてしまうからです。しかし手術だけが癌の対処法ではありません。次では、膀胱全摘を拒み快適な生活を選択されている人を紹介します。
ケース 「膀胱全摘を拒否して放射線治療」
『わずかな血尿に気づいたGさんが、最寄の病院で「膀胱がん」と指摘されたのは、9年前の2002年の暮れのことで、Gさんが72歳の時のことでした。Gさんの膀胱がんは、膀胱鏡や超音波、CTなどの検査により数個見つかり、最大のものが直径40ミリで、その一部が「筋層への浸潤か?」と疑われ、「浸潤性膀胱がんの可能性が高い」と診断されたのです。
こういう場合、検査者の診断では間違いなく浸潤があると考えています。
そのために「浸潤かどうか?」といった段階であっても、泌尿器科医は膀胱全摘出を勧め、かつ実施するのです。そして手術してみると、浸潤が存在することが明らかであるのが圧倒的です。Gさんも後に行なった検査では、浸潤していると断定されています。
日本では、浸潤性膀胱がんの治療は手術による膀胱全摘がベストとされています。
尿を溜めて排出するための膀胱を、癌もろとも摘出することで命を救おうというわけですが、その必要性や合理性には疑問があります。そこで重要なのは浸潤性がんにも、他の臓器へ転移している「本物のがん」と、他臓器へは転移しないために最小限の治療ですむ「がんもどき」の2つがあることです。
「本物」であれば、せっかく膀胱を切除しても、転移するために助かりません。
しかし「もどき」であれば本来命の危険はないので、もし膀胱全摘出をすれば、ただ生活の質を落とすだけの結果になります。Gさんはそうしたことを私の著書や知人のアドバイスで知り、慶応大学病院の私の外来に訪ねて来られました。膀胱は約300ミリリットルの尿を溜められる、伸縮性の高い臓器です。膀胱がんの初発巣がどんなに大きくなっても、尿を溜めたり出したりする膀胱の機能が維持されている限り、命にかかわることはありません。
なぜなら今日、膀胱がん患者の直接的死因は、肺転移や肝転移などによる呼吸不全、肝不全などがほとんどであるからです。他臓器へ転移していなければ、膀胱に生じた初発巣のがんの増大は他の方法で対処することが可能です。したがって初発巣の増大が原因で死亡することはまずあり得ないのです。Gさんが膀胱全摘出を拒否し、当面治療しないで経過を見ることにされたのは賢明な選択だったと言えます。わずかにあった血尿もやがて消失し、通常の生活をしておられました。
「私は手術を拒んで経過観察を選択したために、それまでとまったく変わらないに日常生活を送れています。むしろ膀胱がんと診断されたことをきっかけに、年2回の海外旅行を4回に増やしたのが僥倖(ぎょうこう)だったと思います」と語っています。そしてGさんが最初に膀胱がんと診断されてから8年目の2010年2月、再び血尿が見られるようになり、私は危険はないので様子見の続行でいいと考えましたが、本人の希望で放射線治療をすることになりました。
Gさんの放射線治療は、最初に受診された病院へ依頼しました。
理由は高齢でもあることから、慶応病院まで毎日往復4時間かけて通うのは大変であることです。放射線は外来治療が原則です。またこの病院の放射線科医は、たまたま以前から膀胱がんの治療を頼んでいる関係にあったことも理由です。Gさんは、膀胱全摘を勧められて逃げ出した病院でもあったことから、また行ったら切られてしまうのではないかと心配のようでしたが、「主治医になる人は放射線科医だから、そんなことはありません」とお話ししました。
放射線治療は、通院で週5回、6週間にわたって行なわれました。
それにより腫瘍は消失し、現在まで再発の徴候は認めません。後でGさんから聞いた話では、病院では泌尿器科医も診てくれたそうで、再び「膀胱全摘術を勧められた」そうです。しかし嫌だと言うと、放射線治療に協力してくれたそうです。』
そのために臓器の摘出によって、不自由な苦しい生活を強いられる人が後を絶ちません。進行した浸潤性膀胱がんもその一つです。浸潤性膀胱がんでは、膀胱が全摘されてしまうからです。しかし手術だけが癌の対処法ではありません。次では、膀胱全摘を拒み快適な生活を選択されている人を紹介します。
ケース 「膀胱全摘を拒否して放射線治療」
『わずかな血尿に気づいたGさんが、最寄の病院で「膀胱がん」と指摘されたのは、9年前の2002年の暮れのことで、Gさんが72歳の時のことでした。Gさんの膀胱がんは、膀胱鏡や超音波、CTなどの検査により数個見つかり、最大のものが直径40ミリで、その一部が「筋層への浸潤か?」と疑われ、「浸潤性膀胱がんの可能性が高い」と診断されたのです。
こういう場合、検査者の診断では間違いなく浸潤があると考えています。
そのために「浸潤かどうか?」といった段階であっても、泌尿器科医は膀胱全摘出を勧め、かつ実施するのです。そして手術してみると、浸潤が存在することが明らかであるのが圧倒的です。Gさんも後に行なった検査では、浸潤していると断定されています。
日本では、浸潤性膀胱がんの治療は手術による膀胱全摘がベストとされています。
尿を溜めて排出するための膀胱を、癌もろとも摘出することで命を救おうというわけですが、その必要性や合理性には疑問があります。そこで重要なのは浸潤性がんにも、他の臓器へ転移している「本物のがん」と、他臓器へは転移しないために最小限の治療ですむ「がんもどき」の2つがあることです。
「本物」であれば、せっかく膀胱を切除しても、転移するために助かりません。
しかし「もどき」であれば本来命の危険はないので、もし膀胱全摘出をすれば、ただ生活の質を落とすだけの結果になります。Gさんはそうしたことを私の著書や知人のアドバイスで知り、慶応大学病院の私の外来に訪ねて来られました。膀胱は約300ミリリットルの尿を溜められる、伸縮性の高い臓器です。膀胱がんの初発巣がどんなに大きくなっても、尿を溜めたり出したりする膀胱の機能が維持されている限り、命にかかわることはありません。
なぜなら今日、膀胱がん患者の直接的死因は、肺転移や肝転移などによる呼吸不全、肝不全などがほとんどであるからです。他臓器へ転移していなければ、膀胱に生じた初発巣のがんの増大は他の方法で対処することが可能です。したがって初発巣の増大が原因で死亡することはまずあり得ないのです。Gさんが膀胱全摘出を拒否し、当面治療しないで経過を見ることにされたのは賢明な選択だったと言えます。わずかにあった血尿もやがて消失し、通常の生活をしておられました。
「私は手術を拒んで経過観察を選択したために、それまでとまったく変わらないに日常生活を送れています。むしろ膀胱がんと診断されたことをきっかけに、年2回の海外旅行を4回に増やしたのが僥倖(ぎょうこう)だったと思います」と語っています。そしてGさんが最初に膀胱がんと診断されてから8年目の2010年2月、再び血尿が見られるようになり、私は危険はないので様子見の続行でいいと考えましたが、本人の希望で放射線治療をすることになりました。
Gさんの放射線治療は、最初に受診された病院へ依頼しました。
理由は高齢でもあることから、慶応病院まで毎日往復4時間かけて通うのは大変であることです。放射線は外来治療が原則です。またこの病院の放射線科医は、たまたま以前から膀胱がんの治療を頼んでいる関係にあったことも理由です。Gさんは、膀胱全摘を勧められて逃げ出した病院でもあったことから、また行ったら切られてしまうのではないかと心配のようでしたが、「主治医になる人は放射線科医だから、そんなことはありません」とお話ししました。
放射線治療は、通院で週5回、6週間にわたって行なわれました。
それにより腫瘍は消失し、現在まで再発の徴候は認めません。後でGさんから聞いた話では、病院では泌尿器科医も診てくれたそうで、再び「膀胱全摘術を勧められた」そうです。しかし嫌だと言うと、放射線治療に協力してくれたそうです。』