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尖閣問題を引き起こすことで得をしているのは誰か

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尖閣問題を引き起こすことで得をしているのは誰か

 

孫崎   次に尖閣の問題についてお話させていただきます。
     私はこの問題は、今後の日本の運命を左右するほどの大きな問題になってくると思っています。最初に申し上げましたがこの問題については、ある程度中国が主権を主張できる根拠があるわけです。いまここに、非常に重要な資料がありますのでご覧下さい。(巻末資料に全文を掲載) これは1979年5月31付け読売新聞の社説ですが、非常に重要なことが書かれています。33年前の読売新聞がこのようなことを書いていたのです。ですからこの社説と今の一般的なメディアとの論調の差が、そのまま日本国民の意識の差になっており、これが問題解決を困難にする要因になっていることは間違いないと思いますね。

植草   よくこのようなものを見つけましたね。

孫崎   この読売新聞社説には次のようなことが書かれています。

    『日中双方とも領土主権を主張し、現実に論争が”存在する”ことを認めながらこの問題を保留し、将来の解決に待つことで日中政府間の了解がついた。それは共同声明や条約上の文書にはなっていないが、政府対政府のれっきとした”約束事”であることは間違いない。約束した以上はこれを順守するのが筋道である』と。そして締めくくりには、『今後とも尖閣諸島問題に対しては慎重に対処し、決して紛争のタネにしてはならない』と書かれているわけです。(本書のP.137に読売新聞社説が掲載)


植草   確かに、尖閣についてこのような認識のもとに行動していれば、事態は今のようには深刻化しなかったでしょうね。

孫崎   いま、私は日本の中でこのセリフを言ってくれる人を探しているんです。

植草   かつては読売新聞の中核にいたんですがね・・・。

孫崎   実は私は尖閣問題が起こった後、かなり中国のメディアに出たのです。
     CCTV(中国中央電子台、中国公営放送の中央放送局)の取材を受けたこともあるのですが、そこで何を言ったかといいますと、結論は「小平、周恩来の知恵を日中双方とも大事にしなければいけないのではないか」ということです。

鳩山   まさにその通りで、そこなんですよね。

孫崎   そうしたらCCTVが、それを夜の7時台の皆が一番テレビを見る時間帯に放映したのです。実は中国はそのセリフを一番聞きたがっているんですね。ところで日本にはそのことを表立って言う人がいない。これが一番彼らをイライラさせているところなんです。しかもいま日本側がどのような主張をしているかといいますと、先ほども申しましたが「尖閣列島は”先占の法理”によって日本の領土になっており、中国も1970年代までは文句を言って来なかった」という主張の一点張りなのです。

   日本政府は1895年に、尖閣列島にはどの国の主権も及んでいないという10年間の調査の結果を踏まえて、これは日本の領土だと宣言します。これが”先占の法理”と言われるものですが、これはある時期の植民地の理論でもあるわけです。たとえば中東遊牧民のベドウィンが歩いているような地域は、誰の支配も確立していない無主の地であるから、先に宣言したものに権利があり、欧州列強の領土であるというのがそうした理論であったのです。しかし今この理論は、国際司法上ではあまり大きなウェイトは占めていません。・・・。

   いずれにしても田中角栄、周恩来による日中国交正常化交渉の中で「日中双方とも領有を主張し、現実に論争が存在することを認めながら、この問題を保留しようということで棚上げになった」わけです。さらにこの”棚上げ”の確認は、周恩来の時代と小平の時代に2度にわたって行なわれています。

鳩山   最初は1972年9月、田中角栄首相による日中正常化の時ですね。
     その宴席において田中首相の方から、「尖閣列島についてはどう考えるか」と話を切り出し、「その問題については今回は話したくない」と周恩来首相がやめたわけです。その前後の話からして事実上、尖閣問題の棚上げの合意が2人の首脳の間でなされたと見るのが当然であって、田中首相から話し出しているのですから、こちらが周恩来の提案を呑まなかったなどという話ではないと思われます。

孫崎   田中角栄首相の日中共同宣言を受けて、1978年に日中平和友好条約が作られるのですが、その時、小平副首相(当時)はさらに踏み込んで明確に、尖閣諸島については棚上げということを言っています。それに対して、園田直外務大臣は明示的には棚上げに賛成であるとは言いませんでしたが、後に、実は抱きつきたいくらい嬉しかったと語っています。これは間違いなく、約束・合意があったと考えるのが順当だと思います。

   ところが残念なことに外務省を含め日本政府は、後に、この棚上げの約束を反故(ほご)にしてしまったわけです。棚上げ論には少なくとも、日本にとって3つのメリットがあるにもかかわらずです。その1つは、領有権問題で日中が態度を異にしている中で日本側に管轄を認めていること。2つ目は、相互に武力を使わないことを明確にしていること。そして3つ目は、日本の管轄が長引けば長引くほど、国際法的には日本が有利になっていくことです。つまり棚上げ合意は日本にとってプラスになることなのに、なぜこれを大事にせずに、日本側からこのメリットを放棄しようとしているのかということで、まったく信じられないことです。

植草   その通りだと思います。

  国民が煽動されている裏で進められた米国との懸案事項

孫崎   
尖閣問題を少し別の角度からお話させていただきますと、実は菅内閣が成立したとたん、その最初の閣議で自民党の佐藤正弘参議院議員(イラク派遣自衛隊支援部隊のヒゲの隊長)の質問主意書が提出された時、それに対する答弁書の中で「尖閣諸島は日本固有の領土である」という見解が示されるのです。これで中国側の主張である「領土問題は存在するが棚上げ」に対し、「領土問題は存在しないので、何か起きたら日本の国内法で対応してゆく」という政府の方針が明確にされてしまうのです。

植草   菅内閣の答弁書が6月で、そのあと9月に、例の中国漁船衝突事件が起きるわけですね。

孫崎   これまでも漁船は入ってきているんです。

植草   それについてはこれまでは漁業協定の範囲内で処理してきましたよね。

孫崎   そうです。漁業協定では、入って来た漁船に対しては操業を止めなさいと言って、止めたらそのまま無害通航権で帰していたのです。しかし今回は先ほどの国会での答弁書の件があるゆえに、国内法で対応するということが明確になったもので、日本の漁業法で拿捕(だほ)しに行った。

編集部   中国漁船のほうからぶつけてきたということではないのですか?
      そういう行為があった場合は、国内法を適用してもおかしくはないと思うのですが。

孫崎   いや、そうではないんです。
     なかなか信用してもらえないのですが、よくビデオ画像を見ていただけばわかるんですが、あれは何隻かの巡視船で中国漁船を拿捕しに行っているんですよ。日本が何隻かで囲んで臨検体制に入った、だから漁船はぶつけて逃げようとしたんです。これまでのようにそのまま帰せば、ぶつけてくることはなかったと思います。

   で、その事件の後何が起きたかということですが、沖縄県知事選がありました。
   あの事件がなければ、おそらく伊波(いは)洋一さん(元宜野湾市長)が勝っていたかもしれないのです。次に行なわれたのが米軍基地に対する思いやり予算で、これがスンナリと5年間は減額なしということに決まります。前回の福田康夫内閣の時は3年間で若干ですが減額でしたから、今度はかなり米国側に譲歩したことになります。そしてアフガニスタンに自衛隊の医師を派遣する話が出る。これは社民党の反対で潰れましたが、次に武器輸出三原則の緩和という話が出ました。つまりこのようにして中国漁船の衝突問題があってから、日米の懸案事項は急激に進展を見せたわけです。

   当時メディアでは、この問題は中国側が意図的に引き起こしたのではないかという議論がありました。あの船には工作員がいたのではないかといったようなことです。しかし中国側がハイレベルの決定で本格的に事故を引き起こそうとする場合には、あのような妙な、船長が捕まるというようなみじめな行動はとらないはずです。もっと大々的にやってくるのが普通です。ちなみに1978年には、100隻以上の船が来て2週間以上現場に留まりましたから。

   最近の『AERA』(2012年9月10日号)によれば、海上保安庁の尖閣列島上陸阻止のためのマニュアル(2004年6月正定)が、2010年の漁船衝突事件の際にはまったく守られなかったといいます。「前原国交相は(マニュアルを)一切無視して逮捕、送検を指示。代わったばかりの仙石官房長官には一連のマニュアルも報告されておらず、その存在自体を知らなかった」(政府関係者)と報道されています。中国漁船衝突時に各省が協議をした際、外務省はほとんどしゃべらなかったのに対して、国交省は強硬に逮捕を主張したということです。こういった経緯から見ても、私はこの事件は、前原氏主導で作ったものだと見ています。

   今、注意しなければならないのは、「中国も棚上げ論をやめているではないか。なぜなら中国も尖閣を自国の領土にしようとしているのだから・・・」という議論です。日本が自国の領土と主張し、中国も主張している、これは確かです。しかし両国が主張し合ってはどうにもならないからこそ、そこに”棚上げ論”の重要性が出てくるのです。さきほども申しましたが、日本側から棚上げ論を放棄することは、まったく信じられないほど国益に反することなのです。

   そして結局、日中の対立を煽ることでどこが得をするかというと、米国が日本を対中軍備の枠の中に組み入れていく上で非常に有利に作用することになるのです。こうした関係についてはよく理解しておかなくてはなりません。

植草   そしてこの尖閣の延長線における摩擦が、オスプレイの配備ということにつながっていくのですね。

孫崎   『文藝春秋』の(2010年)10月号でケビン・メア(元米国務省日本部長)が書いているのは、日中関係が緊張している、だから日本はF-35を買え、イージス艦をもっと充実させろということで、対中軍備増強の流れに持っていこうとしているだけで、根本的には日本の安全を考えているとは思えません。

鳩山   結局、米国にとって、日本と中国が仲良すぎるのは困るということなんですよね。

植草   いわゆる棚上げ論は、日本の実効支配を中国が容認し、これを武力で覆さないことを保障するものであって、日本にメリットがあるにもかかわらず、いま日本政府の公式見解は「棚上げ合意は存在しない」「尖閣諸島において領有権問題は存在しない」というもので、前原外務大臣(当時)がそういう発言をしています。

孫崎   こうした見解は自民党時代から存在はしていたのですが、問題が起こることはありませんでした。重要なのは先ほど申し上げたように、前原国交大臣(当時)が海上保安庁の実際の行動基準を変え、実行したということです。

植草   尖閣諸島国有化問題の発端は、石原都知事が2012年4月17日にワシントンDCの保守派シンクタンク、ヘリテージ財団で講演し、東京都が尖閣諸島を購入すると言ったことから始まっています。石原さんは息子の伸晃自民党幹事長(当時)が総裁選に出馬するので、米国の歓心を買いに行ったと見ています。



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